ドールハウスという趣味のジャンルをご存知か。
ミニチュアの人形の縮尺に合わせた家や部屋を模した模型のことだ。古くはリカちゃんハウスやシルバニアファミリーなどを思い出す方も多いだろう。今ではディズニーキャラクターを使ったものなどあるようだ。古くは、と書いたが、日本に入ってきたのは1970年代後半。もともとは19世紀のヨーロッパで流行した女児向けの玩具を祖とするものだ。昔のヨーロッパの絵本などにもそんな描写が見てとれる。
初めは子供向けであったが徐々にクラフトというジャンルに育ち、大人の愛好家も増えてきての日本への流入。大人のホビーとしての1ジャンルになった。海外では1/12スケールが標準となっているようだ。なかなかに精緻なものが多く、専門店などもある。

1980年代後半、ヒルサイドテラスの中にそんなドールハウスの専門店があった。おそらくヨーロッパ製であろう。本物の家具もかくやという高価な値段で小さな宝石のような家具や小間物、身の回り品などのミニチュアが展示、販売されていた。どれも18世紀、19世紀のヨーロッパの生活が浮かび上がるような意匠の素晴らしいものであった。
当時のわたしの仕事、雑貨のセールスだったのだが、隣の得意先の雑貨店へ営業にやってきて、担当の手があくのを待ちながらドールハウス店のショールームを飽きもせず眺めていたことを思い出す。
そんな思いで話しをしたくなった理由が、コフレカという家具を見た時の印象からなのだ。
コフレカはなかなかに興味深いファニチャー、プロダクト。サブタイトルに「ポップアップファニチャー」とある。コンセプトは扉を開いた時の「秘密の空間」というところにあるようだった。いつもの生活空間であるリビングなどにそれを置いて、そっと展開すると自分の視野の中にクローズドなイメージのもう一つの空間が生まれ、ほかの家族や日常的な自室から切り離された感覚を覚えるというもの。大変におもしろいものだ。
ドレッサー、バー、キッチン、ビューローなどが展開されるそのシリーズの中で、特に心惹かれたものにドレッサーの「アクトレス」がある。それをはじめて見た時に思い出したのが、むかしのオリエントエクスプレスや大陸間を航行する大型外洋客船のこと。たとえばアール・ヌーヴォーの時代を思わせる曲線や曲面。そういうもののカケラのようなものが散りばめられていた。

フランス映画の主役を演じる孤独な女優が、その華やかさと裏腹、一人きりで自分の持てる全てを集中させ自身を作り上げる。そんなパリの豪華なアパルトマンの隅で繰り広げられる誰にも見られることのないドラマのようなもの。そういうものを夢想させてくれる。そんな想像を呼び起こすパーソナルドレッサーを眼前にして陶然となってしまった。
コフレカ Actrice
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扉を開いて内蔵されたスツールを引き出し、座ってみると、キルティングが施されたドア両翼の内張りと大きな鏡、姿見に囲まれる。まさに囲まれる感覚があって、たしかにこれはいま一瞬前までいた場所とは違う部屋に入った感覚が確実にある。美しく艶やかな棚や引き出しにもきちんと気が行き届いていて、わたしの夢想の中に出てきた女優が大切な宝物を隠しているのでは、とそっと引き出しの奥を探ってみたくなる。

そうかと思えばクラシックで優雅なデザインのなかにBluetooth とスピーカーが組み込まれ、目立たぬように配されたUSBコンセントからの充電機能も擁しており、レトロフューチャー、ゴチックSF風味とでも言えそうな世界観が顔を出し、楽しく翻弄される。
そしてこのプロダクトのデザインを日本人のアパレルデザイナーがやっていることに驚かされる。が、彼女のプロフィールを聞いていろいろなことに合点がいった。
パリで30年暮らしてきた服飾デザイナー。彼女が暮らし、見続けたその街。都市生活者の視点ならではの、暮らしの中から抽出できたヨーロッパの伝統的エッセンス。どんな理由があってなぜその形になったのか。

その真実はリアルなライフスタイルの中で呼吸するが如く、その生活のすみずみを感じなければ得られないものであろう。
そのヨーロッパのクラシックスタイルを和の木工技術で表現、具現化したファニチャーがコフレカ「アクトレス」なのである。
コフレカ
二つの国の文化を始まりの種として生まれた、作品と呼びたいプロダクトだ。
コフレカのナンバーシリーズはこちら
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Coffrek https://www.coffrek.com